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2009年7月 8日 (水)

脳死臓器移植時には麻酔薬を使っている事実

守田です。法的脳死判定・臓器摘出で麻酔がかけられたと判る患者は、報道や医学文献で分かる範囲に限定しても1、2、9、12、30、40、47、53例目の計8例に麻酔が投与されています。報道または文献の要旨は以下のとおりです。

法的脳死判定1例目(高知赤十字病院)
*     「臓器摘出開始時に、急に血圧が上昇した。そのため麻酔を実施した」、と主治医が記者会見にて公表。
*     西山 謹吾:心臓移植の麻酔、日本臨床麻酔学会誌、20(8)、S146、2000
 今まで使用してきた抗生物質、ステロイドの投与、筋弛緩剤の投与が必須である。あくまで脳死患者であるから、脳以外は正常と考える必要がある。すなわち脊髄反射により高血圧を来たすことはあり、降圧剤が必要になることもある。これに対しては吸入麻酔が調節性に富んでおり使いやすい。脈搏に関しては大きな変動はない。

法的脳死判定2例目(慶応大学病院)
*     川瀬 斌:臨床の現場から 脳死判定医が語る臓器移植、中央公論、150-160、1999年9月号
 心臓摘出の部分は日本臓器移植ネットワークに、麻酔代と手術にかかわった医師五人、看護婦3人という最小限の人件費だけをあとで請求しましたが(後略)*Aikawa Naoki:A 35-year-old Man with Cerebral Hemorrhage andPheochromocytoma:The Second Brain-dead Organ Donor in japan(大脳出血及び褐色細胞腫をもった35歳男 日本における脳死臓器提供第2例)、The Keio Journal ofMedicine、49(3)、117‐130、2000
(事前の超音波検査により、肝および副腎近傍に腫瘤のあることがわかったため、移植用臓器の摘出前に良性か悪性かを調べるため生検が施行され、それぞれ肝海綿状血管腫、副腎褐色細胞腫と診断された。下記は、生検時に昇圧剤や降圧剤を投与しても血圧・心拍が大きく変動したため、ガス麻酔が必要だったことを報告している)
ムライ医師 :生検を行ったのは私ですが、肝臓の針生検を行った際に、患者の血圧は 非常に高くなりました。そしてその後、副腎から楔状に生検組織が採取された時は、 患者の血圧は大きく変動しました。タケダ先生、あなたは外科手術の時の血行動態の記録を持っていますか?
タケダ医師 : 褐色細胞腫の診断は、通常は術前になされています。褐色細胞腫は血中のカテコー ルアミンの濃度(レベル)が上昇しますので、拮抗薬が使われたり、循環血液量の低下を補うために血液製剤が投与されます。 褐色細胞腫の患者は手術直前の、この様なコントロールのもとであっても血圧の変動は依然として激しいことが多いのです。 しかしながら、今回の症例では、褐色細胞腫の診断は手術中(当サイト注:生検中に?)になされました。我々のデーターを調べてみますと、血行動態は、非常に激しく変動しており血圧はある時は210/120mmHgに上昇し、直後には80/75mmHgまで低下したことが記録されています。 心拍数は一般的にはだいたい100拍/分ですが、手術中には140拍/分まで上昇しています。しかし、こういった事態は、我々が何も対処を行わずにいた間に起こったわけではありません。我々は様々な降圧剤、昇圧薬を投与しましたが、血圧の異常な変動は収まりませんでした。 さらに、脳死の患者さんに対して麻酔が必要かどうかは、興味ある点でしょう。通常は筋弛緩薬のみを投与します。しかし、この患者には血圧コントロールのために一定量の吸入麻酔薬が必要でした。
アイカワ医師:2回目の脳死判定をもって、脳死患者となりました。引き続いて行われた臓器摘出手術やその手技における患者のマネージメントに関わる管理は、いくらかの麻酔薬は使用されますが、「麻酔管理」と呼びません。「ドナーの呼吸・循環管理」 と呼びます。 ここまでお伝えした中で、何かご質問はございますか?

法的脳死判定9例目(福岡徳州会病院)
*     三浦 泰:脳死臓器提供者の麻酔経験、麻酔、50(6)、p694、2001 ベクロニウム(筋弛緩薬)4mgを静脈注射した。臓器摘出手術の開始直後に一時的に高血圧となったため、ニトロプルシド(血管拡張薬)とイソフルラン(ガス麻酔)0.5%を数分間投与した。
法的脳死判定12例目(川崎市立川崎病院)
*     西部 伸一:臓器移植と手術室(一般病院麻酔科の立場から)、日本臨床麻酔学会誌、21(8)、S181、2001
 臓器移植法に基づく臓器摘出手術の経験のある施設から適宜アドバイスを得ることができたため、比較的支障なく臓器摘出手術の麻酔へかかわることができた。しかし、ドナー管理中の電解質以上および摘出手術中の血圧管理には困難が伴った。

法的脳死判定30例目(日本医科大学付属第二病院)
*     大島 正行:脳死ドナーの麻酔管理経験、日本臨床麻酔学会誌(日本臨床麻酔学会第24回大会抄録号)、S59、2004および付属CD\endai\1-023.html
 フェンタニル0.1mg、ベクロニウム20mgで麻酔導入し、酸素-イソフルランで維持した。各摘出予定臓器周囲の剥離と臓器の視診、触診後、ヘパリン20,000uを静注し、灌流用カテーテルを挿入した。その際徐脈を来したためアトロピン0.5mgを静注した。脳死後も脊髄反射が残存するため、筋弛緩薬は必須である。胸骨縦切開時の血圧上昇時にフェンタニル、イソフルランを使用した。徐脈時にはアトロピンは無効とされるが、我々の症例では有効であった。
*     大島 正行:脳死ドナー臓器摘出の麻酔 あらためて感じたコミュニケーションの重要性~「命のリレー」に携わって、LiSA、11(9)、960-962、2004
 この資料にも、麻酔投与とアトロピンが効いたことが記載してある。
 注:脳死判定の補助検査としてアトロピンテストを行なう施設もある。アトロピンを投与して脈拍が増加すると脳死ではないと判断される。

法的脳死判定40例目(浜松医科大学医学部附属病院)
*     木下 恵理:本院における脳死ドナー移植の経験、日本臨床麻酔学会誌(日本臨床麻酔学会第26回大会抄録号)、S208、2006
*     木下 恵理:本院における脳死の麻酔、麻酔、56(9)、1119、2007
 ドナーの麻酔は少量の吸入麻酔薬と、筋弛緩にて行った。脳死移植ドナーの管理において、純粋に医学的な麻酔管理だけでなく実務上必要な事柄が多く、麻酔科医の負担が大きかった。

法的脳死判定47例目(帝京大学医学部附属市原病院)
*     長谷 洋和:脳死ドナーからの臓器摘出術の麻酔の実際、日本臨床麻酔学会誌(日本臨床麻酔学会第26回大会抄録号)、S208、2006
 脳死という特殊な状態に医学的な麻酔管理が必要であった上に、各臓器摘出チームから個別に細かな依頼に対応しなければならなかった。脳死ドナーからの臓器摘出の経緯と麻酔管理を紹介する。

法的脳死判定53例目(札幌医科大学付属病院)
*     山本 清香:レミフェンタニルを使用した脳死ドナー患者の麻酔管理、臨床麻酔、31(8)、1353-1355、2007
 手術室入室後、有害な不随意運動と十分な筋弛緩を得るため、ベクロニウム5mgを単回投与した後、5mg/hrで持続投与した。手術刺激に伴う循環変動に対処するため、レミフェンタニルを0.06μg/kg/min持続投与で開始し、体重1キロ当たり毎分0.1~0.3μg/kg/minの範囲で循環を管理した。

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コメント

この記事の趣旨が分かりません。
移植臓器のを摘出する際に全身麻酔をすることがいけないということでしょうか?

脳死状態でも交感神経の反応が残っていることは十分考えられます。当然痛みなどの刺激によって血圧が上昇することも予想されます。

提供される臓器をより良い状態で摘出するために、過度の高血圧や過度の低血圧から臓器を保護する目的で麻酔が行われることに何か問題があるのでしょうか?

脳死判定自体に問題があるとすれば、それは摘出手術を行う前の段階の話です。
脳死判定をもっと慎重にするべきだという意見には私も賛成ですが、そのことと臓器摘出手術に麻酔薬を使用することとは別の話ではないのですか?

投稿: | 2009年7月 9日 (木) 10時44分

名無しさんこんにちは
交感神経が生きているということは脳死とはいえないのではないですか。瞳孔に光を当てて副交感神経が死んでいる事を確認するというのが脳死判定の一つになっています。その光の強さ部屋の明るさに定めがなく、本当に副交感神経が死んでいるかどうかの診断が出来ないというのが守田さんのおっしゃっていることですが。

投稿: ゲン | 2009年7月10日 (金) 00時33分

対光反射は副交感神経性の神経線維を介しているのは確かですが、その他に動眼神経などの中枢系の神経も関与しています。
理論的には、中枢神経が機能していない場合、自律神経系が生きていても対光反射は起きないはずです。
そもそも私が言いたかったのは、臓器摘出手術時に麻酔をかけることと、「脳死判定は別次元の話ではないのか?」ということだったのですが……。

投稿: | 2009年7月10日 (金) 07時40分

名無しさんこんにちは
守田さんの言いたいことは、「死体」であるなら麻酔は必要ないはず、麻酔をかけなければ痛がるというのはまだ生きている証拠だということなのですが。医学に詳しいようですが、自律神経が生きているというのは「死体ではない事の証明」ではないのでしょうか。

投稿: ゲン | 2009年7月13日 (月) 09時10分

名無しさんは、1990年に起きた阪大事件の医者の様な考えのひとですね!

投稿: とん吉 | 2009年7月13日 (月) 17時12分

自律神経が生きていることと、痛みは別物だと思いますよ。
痛い、熱い、冷たいなどの刺激に対して人間は脊髄反射である程度反応します。手術中の血圧の上昇などは、手術という刺激に対する脊髄反射で血管が収縮するからです。
刺激が脳に伝わって、脳が痛みを認識して初めて人間は「痛い」と感じるわけですから、「脳死」と判定された人は「痛み」というものを感じていないと思いますよ。

「脳死」の議論は結局、どの段階でその人の死を認め、受け入れるかということだと思います。残された人たちにとってその人の死を受け入れることは簡単にはできないと思います。だからこそ「脳死」という概念を受け入れがたいという人がいても当然だと思います。

投稿: | 2009年7月14日 (火) 04時19分

不可逆性の昏睡論ですね!「従来の死の定義では、移植のための臓器摘出で論争になるから」と作れた68年ハーバード大学特別委員会レポートを持ち出すところが、そうだと言うのです(-_-メ;)名無しさん!貴方の様な人が、子供の臓器移植に先鞭を付けるような事をやらかすんですよ(-_-#)

投稿: とん吉 | 2009年7月14日 (火) 05時27分

名無しさんこんにちは
あなたの論理は、その人がすでに死んでいるという前提で、脊髄反射かもしれないではないかということのようですが、死んではいないという前提にたてば、痛がっているということを否定できないのではないですか。要するに死体だから痛がりはしないとおっしゃっているわけで、死体ではないという前提を否定していることにはならないのですね。「死んでいるから死んでいる」という同義反復をしている理屈なのですよ。
脳死移植のときの様子の麻酔なしでやると「悶絶する」というのを単なる反射では説明がつかないのではないですか。ぴくっと動くという程度ではないのです。悶絶しているのを見て痛がっていると感じるのは当然のことではないですか。痛がっているものは死んではいないと見るのは当然のことで、だから脳死は死ではないという論理の方がすっと入ってくるのですがね。

投稿: ゲン | 2009年7月14日 (火) 05時42分

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