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2010年5月31日 (月)

予断許さぬ障害者自立支援法の行方

寄稿(柳田勝英・ルポライター)

 こと小泉政権以来、障害者運動を取り巻く状況が急激に右傾化した。例の障害者自立支援法のことである。

 さかのぼること約七年前、2003年四月から身体・知的・精神の三障害のうち、身体・知的障害者を対象に支援費制度がスタートした。戦後福祉政策の骨格は「措置制度(行政処分)」にあったが、これにより、障害者自らが福祉サービスを事業者と「契約」するシステムへと政策の流れが大きく転回することとなる(ちなみに精神障害者は戦後一貫、福祉の蚊帳の外といってよい状態で、措置制度といえば、悪名高き強制入院制度の「措置入院」くらいだった)。

 良心的な障害者団体は、様々な問題を抱えるこの支援費制度に反対してきたのだが、とにもかくにも身体・知的障害者のひとたちは事業者と契約を交わして福祉サービスを積極的に利用した。

 これは政府の誤算でもあった。支援費制度の導入により、2003年度は128億円、さらに翌2004年には250億円もの大量赤字が発生。国・都道府県・市町村の負担分のうち、国と都道府県からの補助金は裁量的経費(財務省によって組まれた予算を超えてしまったときは、超過分を厚労省は負担しない。都道府県も同様)であったため、国、都道府県が出さなかった(出せなかった)不足分は、市町村が負担することとなる(最終的には厚労省内の予算流用や、政治家へのお願いと財務省との折衝で補正予算を確保し、厚労省が二年連続で補てん)。そして、こうした事情を背景に、財務省は厚労省に対して次のように迫った。

「義務的経費(財務省が予算を組む義務がある)化にして確実に補助金分を厚労省へ分配してやる。市町村の財政を安定させるためだ。だが、そのかわり応益負担を導入してもらう」
 財務省の担当者が一字一句こう言ったかはともかく、これが障害者自立支援法の成立経緯のひとつと言われている。つまりはこうだ。応益負担(利用者の一割自己負担)を導入することで障害者がサービスをなるべく利用しない状態にする。かといって生活保護に流れられても困るので負担の上限はとりあえず設定しながら……。

 だが、またしても政治家、財務省、厚労省の面々は状況を見誤る。上限を設定したところで障害者の多くは低所得者である。多くの障害者が生活保護に流れるのは必然ともいえた。生きなければならないからだ。また、障害者問題とはいっけん無関係のようだが、労働者派遣が1999年に原則的に自由化され、派遣労働者の数も激増した。生活保護水準以下で働かねばならないワーキング・プア層も生活保護へと流れ出してきたのである。

「すると今度は生活保護の削減検討? ふざけるな!」
 こうした怒りが障害者運動という側面での自公政権に叩きつけられた「NO!」であった。
 昨年の政権交代後、政府・与党は当初「障害者自立支援法を2013年8月までに廃止し、当事者の立場に立った新しい法律をつくる」と表明。ところが現在、野党である自民・公明両党の障害者自立支援法の一部改正案に対し、政権与党が同調し、ほぼ同内容の法案を超党派の議員立法として今国会に提出し、成立する可能性が強まっている(5月31日現在、衆院委員会を通過)。「与党は労働者派遣法改正案などを通すために、そのバーターとして国対で同調した」(「障害者自立生活・介護制度相談センター」への電話取材より)という経緯だという。

『毎日新聞』2010年5月26日東京朝刊【野倉恵記者】によれば、これは「新制度開始までのつなぎ法案」で、一律一割自己負担の「応益負担」から所得に応じた「応能負担」にすること、発達障害を同法の対象と明記することなどが内容。障害者団体からの「それ(新制度開始)までの間どうするのか」との懸念の声に応えたものだという。

 一見、良心的な法案のようにもとれるが、制度の谷間の問題、知的障害者などの移動支援の問題、サービス利用計画の拡大等の問題はそのまま残っており、新制度成立までの暫定改正法にしては時限立法である明記もない。このように実は非常に問題の多い法案であるとの声が強い。

 派遣問題と障害者問題、どちらも大事なのに、派遣問題を優先させるための譲歩として出てきた法案なのだから問題が多いのは当然ともいえる。また、こうした派遣法改正との取引という側面だけではなく「障がい者制度改革推進会議」(新制度成立に向けて設けられた、障害者当事者や有識者らで構成されている会議)の抑え込みに入ってきているとの指摘もある。成立すれば2012年4月から完全施行される。

 障害者たちは甘言に裏切られ続けてきた過去がある。さらに改正法審議の最中に、普天間飛行場移設問題をめぐって与党内「抑止力」としての社民党も連立政権から離脱した。

 予断を許さぬ状況が続いている。

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